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人生に良き師をもつ幸い(独り言)

最近、私は、恩師の尾形典男先生の「回想 尾形典男」の限定版を開いて、しばし昔のことを思いだす時をすごしました。「人生に良き師をもつ幸い」とは、私の2年先輩の吉羽真治氏の弔辞に書かれた言葉です。

尾形先生は実にユニークな先生で、そんなに本を書いている人ではない、というか、自分の論文を発表し世に現すという功名心のない人で、助教授たちに「学者になるよりはよい先生になりなさい」と語る人でした。

だから、いわゆる有名な先生ではないが、政治学者としては、知る人ぞ知るという、ずば抜けて頭脳明晰、精密な論理の持ち主でした。ですから、この先生に立ち向かうには、相当の準備が必要で、よく考えもせず、ありきたりな答えでもしようものなら、“バカ野郎”と一喝されますが、やさしさを込めたまなざしがありました。だから、“尾形ゼミ”というと法学部でも一目おかれた存在でした。後に、私は、そのゼミの仲間と結婚したのでした。

添付写真の先生方は、皆さん東大法学部の先生方で、立教法学部の基礎を作られたのは、東大の先生方でした。それで、(当時)立教法学部は、東大第二法学部とも呼ばれました。写真の中央に、憲法の権威者、宮沢俊義先生がいます。

その中の神島二郎先生は、個人的にも親しくさせていただきましたが、戦争の話になると、ついつい南方から引き上げてくる時の話になり、“ひとりでも多くの兵隊を日本につれて帰りたかった”と壇上で涙したのでした。尾形先生は、海軍の将校でしたが、神島先生は、陸軍の軍曹であの悲惨・壮絶な南方からの引き上げに関わった方でした。

動けなくなった兵士に少しの米粒を握らせ、手榴弾を渡さなければならなかったのです。だから、国というバケモノに二度と戦争に駆り出されてはならないと学生たちに語らずにはいられなかったのでした。

久保田キヌ先生。この方は、東大法学部の初めての女性の卒業生で、その後、アメリカのプリンストン大学に学び、有名なのは、3回にわたって国連総会の日本政府代表代理を務めたことでしょうか。専門は、比較憲法とのことでしたが、私たちは、英米比較法を学んだように記憶しています。

私が、大学を卒業した頃、日本は、外国人、特に韓国人、朝鮮人に排他的で、一部上場、二部上場の会社はどこでも雇ってもらえない時代でした。入社試験も受けられなかったのでした。

日本の通名で日立製作所に入社した韓国人が、後で韓国人とわかり、解雇されたということがありました。横浜地裁に不当解雇だと訴え、勝訴し、日立は上訴しなかったので、復職がかなったという事例があるように、韓国人、朝鮮人にとっては、普通の就職は極めて困難な時でした。

私は、とりあえずジャーナリズムの世界に入ろうと思っていましたが、新聞・雑誌などどこも就職できなかったのでした。

そんなある日、尾形先生の研究室を訪ねるとドアが閉まっていて、しょうがないから帰ろうと廊下をあるいていると久保田先生とばったり会ったのでした。先生は、「尾形先生に会いにきたの?先生はここ数日来られませんよ。私のところで、コーヒーでも飲みません?」といって、先生の部屋に招いてくださいました。

先生は、コーヒーを入れてくださりながら、“就職は大変そうね”という話をされました。多分、教授会などで、尾形先生が私の話をされたのだろう、と思いながら、お互いに雑談をしたのでした。

そのころは、まだ、アメリカに留学しようという考えもない時で、もし、アメリカ留学という話でもしたら、先生を通して、奨学金でももらえたかも知れなかったのですが、そんなことはまだ考えてもいなかったのでした。丁度、その頃、東京オリンピックのあった時で、久保田先生は、「オリンピックを見ると、あの国粋主義がよみがえるのが見えます。実に、悲しいことです。」とつぶやかれました。

年をとると、いろんな悔いがふつふつと湧いてきます。私たちは、何度も尾形先生のお宅を訪れたのに、久保田先生には、今まで一言も報告することがなかったことです。

もし、私たちが、なんとかアメリカで生活することが出来るようになったことを報告したら、久保田先生はどんなにか喜んでくださったことでしょう。そして、あの時のコーヒー一杯のお礼も言いたかった。それは、私の心にいつまでも残っている幸せな時でした。もう、お礼は、天国でするしかありません。

「互に愛し合うことの外は、何人にも借りがあってはならない。人を愛する者は、律法を全うするのである。」(ローマ人への手紙13章8節)

ロバート・イー


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